日本で働きたい外国人がいなくなる時代

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20年近く前、外国人研修制度の頃から外国人技能実習制度に関わり、特定技能の支援機関でもある弊社がこういうタイトルで投稿するのは、問題があるかもしれませんが…

このままいけば、高い確率で日本で働こうとする人達は減っていくと思います。
その根拠については、こちらの記事が大変分かりやすく書いておられました。

日本人は国際的に低い給料の本質をわかってない
OECDが加盟諸国の年間平均賃金額のデータを公表している。2020年について実際のデータを見ると、つぎのとおりだ。日本は3万8515ドルだ。他方でアメリカは6万9391ドル。したがって、日本の賃金はアメリカの55.5%で…

外国人が「日本で働きたい」と思うのは「同じ仕事をしても、自分の国で働くよりも、とんでもなく高い給料がもらえるから」というロジックを否定する人はいないと思います。

2000年代の初め頃、すでにたくさんの研修生(いまの実習生)が来日していましたが、ほとんどが中国から来た20代から30代の青年たちでした。
面接に何度も参加したので覚えていますが、当時、彼らが故郷で得ていた賃金は5000円~7000円。
月給1万円くらいです、と答えると「何の仕事でそんなにもらっているの?」と聞き返したものです。

そんな彼らが来日して、手取りで10万円以上、時間外の多い会社では15万円近く受け取るわけですから、10倍以上の収入になるわけです。

ところが、ほどなくして、中国から来日する実習生は入国者数こそ横ばいですが、比率でみれば大きく減少しました。
中国人の技能実習制度関係者によれば
「実習生の候補者として多かった地方在住の人々は「農民」の戸籍なので、自由に土地を離れることは許されません。様々な条件を満たした時にだけ(例えば大学進学など)、都市部へ住むことが許されるのです。いまも、その法令は変わらないのですが、大都市圏や深センの製造業のように人手不足が顕著になってからは、だいぶ緩和されてきました。複雑な手続きを経て日本に行くよりも、それほど給料が変わらないのであれば、国内で働き、いつでも家族に会えるので日本へ行く人達は減りましたね。
いま、実習生で日本へ行っているのは、待遇が良く、日本での経験が帰国後に活かせるような職種か作業内容だと思いますよ」とのこと。

毎年順調に推移していた中国の経済成長が、ついに「よその国で働くメリットがない」と言わしめるところまで到達した、というわけです。

代わりに大きく躍進したのはベトナムです。
2015年に32,000人だった入国者数が2019年には91,000人と3倍近くまで増えました。
「中国人の比率が減っても、ベトナム人が来てくれるならいいじゃないか」
というかもしれませんが、そうも言っていられません。

ベトナムをはじめとするアジア諸国も順調に経済成長しており、いつの日か中国のように
「日本へ行ってもあまり稼げない」
ということになりかねません。

実際、この20年で、日本、中国、ベトナムなどがどのように推移しているのか、一人当たりのGDPで比較してみたいと思います。

データはグローバルノートという国際統計・国別統計専門サイトのデータを参照、抜粋しました。
2000年は20年前、2005年は自分が研修制度に関わるようになった年、2009年はリーマンショックの翌年です。
「1人当たりのGDPは当てにならない」という見解もありますが、一定の目安として捉えることは出来ると思います。

先も書きましたが、自分の国で働くよりも給料が高いから、海外で働く意味があるのであって、多少高いくらいでは、為替リスク、家族と離れて暮らす精神的な負担、残された家族が家事や育児をワンオペでこなすという負担をペイできないでしょう。
それこそ5倍10倍の収入にならなければ、意味があるとは言えません。

経済が停滞したままの日本が、彼らに対してどこまでそれを約束できるのか。

「(来日するのは)お金だけではない」という意見もあります。
基本的に治安は良いですし、皆保険制度など医療が充実しており、いずれは家族と共に日本で生活基盤を確立したい、という人々もいるでしょう。
技能実習生のとの交流でも「日本に興味があった」「働きながら様々な経験をしてみたい」という声もありました。
ただ、そういう外国人はレアケースで、仮にそういう人たちが街に5人10人住んでいても、産業の根幹が変わるほどの影響力はないと思います。

先日も、とある食品加工業の経営陣と面談しました。
「卵が先か鶏が先か分からないが、日本人の働き手がいない、いても来ないというのは事実。外国人によるマンパワーはこの先さらに必要となるが、周辺国の経済成長が順調なので、日本に来る『うま味』はだんだんと落ちている。特に比較的賃金が低い食品製造業界は、選ばれなくなるのではないだろうか。かといって、待遇を上げれば外国人だけ優遇するわけにはいかないので、日本人を含めた全員の人件費が経費増となる。その分、価格に転嫁できるかといえば、いまの日本経済ではマーケットはYESとは言わないだろう。とすれば、あと何年もしないうちに、ますます倒産や廃業が増えるのではないか」
と、厳しい表情でした。
日本人だけで対応は出来ないのか、という問いには
「そもそも地方には人がいない。関東地方でも人手不足は深刻。ある会社では「地元での操業から都心に工場を移し、人材確保を優先してはどうだろうと取引銀行から打診を受けた。しかし、今度は都心に近ければ人件費を上げなければ募集に人は集まらない。ブルーワーカーでも外資系の物流などは日本よりも待遇がいいので、そちらと競争していかなければならない。どちらにしてもいばらの道」とおっしゃっていました。

外国人の力に頼るにせよ、自分たちの力で頑張るにせよ、失速した経済成長のスピードをあげていかなければ、日本人が海外で外貨を稼がなければならない時代がいよいよ現実味を帯びてくるかもしれません。

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