技能実習制度について何やら騒がしいですが…

有識者による「技能実習制度廃止」に向けての協議が行われている、という報道を目にするようになりました。
筆者個人の予想としては、ドラスティックに変わることはないと思います。
およそ20年、外国人研修制度だった頃から関わっているのですが、技能実習制度になった時も「フルモデルチェンジ」という感じではありませんでした。

大きな変化が期待できない理由のひとつとして、近年創設された技能実習機構の存在です。
複数の省庁によって作られた組織ですし、あまり言うと怒られるかもしれませんが、こういう組織は予算を使うための受け皿になっています。
制度を廃止にして、技能実習機構を開店休業もしくは閉鎖に追い込んだら、困る方々も出てきます。
もう一回言いますけど、この辺をあまり騒ぐと怒られてしまいます(笑)。

困る方々と言えば、おそらく外国人技能実習生を派遣する海外の派遣会社も困るでしょう。
ご存じの方々も多いと思いますが、技能実習生として来日する外国人は入国前に日本語を中心とした事前の講習が定められています。

これが曲者で、日本の受入れ側のリクエストが色濃く反映されたカリキュラムに沿って勉強しているところは授業内容もしっかりしているのですが、名ばかりの授業でお茶を濁している先もあります。
日本の会社で日本語による技能習得が目的なので最低限の日本語教育が必要というロジックは理解できるのですが、数か月で日本語がマスターできるとは思えません。
さらにいえば、講習内容や結果については審査されることなく、本人の努力でペラペラに近いくらい日本語が上達しようが、簡単な挨拶を覚えただけの人でも、在留資格の認定申請においては、まったく差がありません。

もちろんこれにも費用がかかり、それを誰が負担しているか、というと技能実習生本人だったりします(日本側が負担するケースもゼロではないですが)。
私の知る技能実習生OBは、実習生として申し込むために申込金として100万円を払い、さらに日本語教育を受講するため、授業料と滞在費(寮のある学校で勉強するため)で30万円を納入したそうです。

母国にいても稼げないから海外に行くのに、130万円もの初期費用が必要となるわけですから、ひどい話です。
日本の技能実習制度がけしからん!と声をあげる人たちは、海外の派遣会社に対してシュプレヒコールをあげてほしいものです。

これもあまりいうと怒られるかもしれませんが、

お金のない実習生に対して、派遣会社は金融機関と連携して彼らにローンを組ませることもあります。
そのうえ、日本の会社は監理団体を通じて、数千円から数万円の「管理費」という費用を母国の派遣会社に支払い続けます。
仮に1万円だったとして5年間在籍したら、一人当たり60万円の収入になります。
経験上ですが、管理費支払いを名目に、派遣会社が何かしてくれるわけではなく、基本的に国内で起きた事案は国内で対処しなければなりません。
なかには、日本に通訳兼指導員を配置する会社もあってケアやフォローを手伝ってくれる場合もありますが、たくさんの数を受入れた団体へのサービスのようなもので制度上定められたものではありません。

いろいろとネガティブな物言いになりましたが、技能実習制度を大きなくくりで「人材派遣」と位置付けた場合、派遣手数料を取るのは当然のことです。
たとえば、実習生の時間当たりの給料が1000円だとして、年間2000時間勤務したら、年収200万円ですが、法廷控除もありますから、多く見積もっても手取り14万円には届かないでしょう。
昇給も時間外もないまま14万円を5年間続けたら、840万円。
実習生本人は130万円くらい払っていますから、収入の16%弱は派遣会社に持っていかれるわけです。
ここだけの数字を見ると、なんとなく正当な気もします。
いまはもう少し比率が下がりましたけど、会社が派遣会社に派遣料を時間当たり1500円払ったら、派遣社員には1000円、派遣会社には500円という比率になっていましたので、イメージ的には3割は派遣会社の取り分、というのが定説でした。

ただ、派遣社員の場合、実習生と違って派遣会社に手数料を一気に払うわけではありませんから、経済的にも精神的にも負担は大きいものとなるでしょう。
借金を最初に作らせておけば、技能実習生も年季をまっとうするだろう、という思惑が見え隠れしますね。

技能実習生が「奴隷」と非難される理由のひとつとして「転職が原則禁止」という部分です。
傍から見たら職業選択の自由に反する、ということになりますが、これも制度を知ると一概に非難出来ない側面もあります。

技能実習生を雇用する会社は、実習生採用と同時進行で彼らが住む住居だけではなく、寝具や生活用品、家電などを用意したうえ、渡航費用と入国後約1か月の講習時にも生活手当を支給します。
スケジュール通り、順調に入国すればいいですが、入国が伸びた場合、契約した賃貸契約の物件には家賃を払い続けなければなりません。
それ相応のイニシャルコストと時間を費やして、入国して間もなく「転職します」「やめたいです」と言われたら、やり切れません。
そんなものですから、仮に本人に原因があって辞めたい、帰国したい、という申し出があっても、会社や監理団体は、日本人従業員には決してあり得ないほどの「慰留」に努めます。

いまの制度上では難しいのかもしれませんけど、渡航費などは本人負担にしたらある程度は解消できるでしょうし、同時に、あまり意味のない講習なども廃止したらいいのです。
そのかわり、特定技能のように、在留資格認定申請の要件にJLPTの資格を入れたらいいのです。
ただ、N4くらいでは仕事にもなりませんし、結局は日本で働いて生活しながら勉強する方が上達も早いので、個人的には日本語能力は不要じゃないかと思います。

技能実習計画もどこまで実際の業務内容と一致しているか怪しいものですし、これもまた既得権益が動いているとしか思えない技能検定試験も廃止したらいいのです。

申請内容を簡素化したり、要件を満たす基準(本人であれ受入れ側であれ)を緩くすると、不法滞在や不法就労の温床になる、という指摘もありますけど、もはや日本に来て働こうという人たち自体が貴重な存在になりつつあります。

シンガポールやオーストラリアは日本よりも賃金が上がっていますし、韓国も日本と肩を並べていますから、日本で働くことが最適解ではないかもしれません。

これを言ったらおしまいなのかもしれませんが、技術移転が最たる目的だったら在留資格は研修のままでよかったはずで、目的は労働力の補強で、技術移転や人材育成は結果的にそうなるケースもある、くらいでいいんじゃないでしょうかね。

食品製造業で入社してみたけど、この原料は何処から来たんだろう、農業で働いてみたいな、というなら、別の業界へ転身しても悪くないと思うのです、個人的には。
ことさら職業選択の自由を振りかざすつもりはないですが、製造部門で入社した従業員が何年かして営業部で花開く、というケースは珍しいことじゃありませんし。

さて、有識者を交え、どういう方向性に行くのでしょうね…?



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